初代ステレオ事業部長 鈴木健の 「私の体験よりの随想」
第2章:V社を眺めてみよう
1):V社の企業ポリシーは「音(画像)を通じ新しい感動を限りなく生み出し提供する」事であろう。
従ってビクターという人間集団は感覚に敏にして情熱的想像力にあふれていなければなりません。
強いソフトビジョンと夢を持つ人材の集まりで一般会社のような生産販売会社でのサラリーマンの集まりとは
根本的に異なることを自覚すべし。
2):V社の本当の創立は松下が入ってきた昭和28年であることを知るべし。
かつて世に高く評価されたヒット商品も
皆基本は“RCA”の開発したものであり生みの苦しみを本当に体得したものは一人もいないのに、自らの伝統と
誇らしげに錯覚していたのである。
生みの苦しみからヒット化する道程を体得しておらぬ、弱い体質は、RCAと縁が切れた戦後まざまざと露呈してきたのです。
多額の借金の上何年経っても芽が出ず、ついに松下の経営に助けを請う事になったのである。
3):救世主松下の経営でビクターは一新する
情熱あふれる経営哲学を骨格に一代でゼロから世界のNo.1にまで生み育て、あらゆる生みの苦しみの苦難を身に付けた
経営力は、疲弊しきったビクターを一新させ、わずか数年を出ずして、借金企業から優秀企業へと変身させ、企業の最高の誇り
とする「経営賞」を受ける迄にしたのである。松下が来て何が変わったのか・・・全社員にV社の企業ポリシーを改めて
認識させられ、万事これを骨格とした方向付けをされ生き甲斐ある活力を与えたことにある。
松下経営の印象深いことがらを次に述べましょう
イ):北野専務は就任の挨拶の中で
・ビクターは日本にとってつぶしてはならぬ企業である と声明される
・「今までの業績不振は人が多すぎたためでもなく質が劣っていたのでもない、要は経営に問題があったからである。
ですから人数も変えません、人も一人も入れ替えません、新しいやり方で一生懸命やりますので、どうか信頼し
協力して欲しい」と。実に明快な決意表明であり全社員安心し自ら活力の湧くのを覚えずにはおれなかった。
ロ):実態把握の下、打てばひびくの体制で次々と的確な手が打たれてゆく
・係長10名くらいの単位で連日精力的に懇談を持たれ実態を把握されるとともに一人一人の発言を極めて率直に
傾聴され而も反応が早く翌日にはすぐに手を打たれる。打てば響くの姿には誰しも生き甲斐を感じたものでした。
・専務室より一番遠い(離れた)トイレを使用するよう自己規制され、各職場を出来るだけ通るようにし、励ましの声を
かけられると同時に、実態を常に自分の眼で受け止めるご努力までされておられるのに、経営のあり方の一面を教えられた思いでした。
・競走に勝つには先ずは相手を知ることとされ専務は車中からも細かい情報に留意され、たとえば他社の看板の数
そのかけられ方などそして自社の姿を対比されいろいろと指示までなされる。
ハ):ビクターマンである誇りを全員に訴えられる
・たとえ現在会社が赤字とて自ら卑下してはならぬ。自分の会社自分の仕事に先ず惚れ込め。今良い会社として先にあったのではなく、
社員が自ら良くしたことを知れ、バッジは胸を張って堂々とつけよ。これの出来ぬ者は会社を去るべし。・・・出勤時バッジを付けぬ者に
入門禁止令が出る。専務はあらゆる場、機会を通じ自ら進んで犬のバッジに注目させPRに努力された。
ニ):商品企画を最重点業務と位置づけされる
・「企業競走の最大の武器は唯一商品にあり」。
商品つくりは全員挙げてやるべき仕事とされ、専務自ら必ず出席、陣頭指揮される。今までと一変し各役員まで出席。設計担当からトップにいたるまで全員参画し、
鋭い意見交換ペースに、他社をしのぐ内容にするには絶対に妥協は許されず、且つ同一席上であらゆる販売戦略まで討議し、完璧な肉付けまで決める。
各役員も単なる出席は許されず次々と意見を問われる形で行われたため全員真剣にならざるを得なかった。
ホ):新しい人事方針が活力を生む
・ビクターの企業ポリシーを具現さす人材とはどんなセンス力、創造力、実行力、技術力、説得力、指導力、人間性が必要か・・・・とにかく目的が先にあり
これの実現のために、採用条件、教育のあり方、日常評価基準が決められるようになる。これは全社員をして勇気と活力を生む最大の原動力となったのである。
ヘ):宣伝活動は商品という武器のよさを最大に援護射撃するもの
・商品つくりと同じく最大の重要業務とされ、すべてトップ自ら細部まで
決定されるようになる。
ト):少数意見こそ尊重せよ “多数決は凡作しか生まぬ”
・少数にせよ奇抜な意見こそ個性に富んだすばらしい価値を秘めている筈。是を見抜く力量を、上に立つ者は身に付けよ、さもなくば管理職は不要と思え。
チ):相手の分野に飛び込んで仕事をせよ
・鎖を見よ、相手の輪に入り込んでいるから切れぬのだ。相手を動かすまでが自分の任務である。組織力とは相手の分野に入り込んでこそ生まれる力なり。
リ):ビクターの企業ポリシーを発揮する最大の要素は創造力
・技術提案、特許申請をはじめ、現場の一工員の改善提案を極めて重視され、全社挙げての啓蒙を日常化するとともに表彰制度も新設される。