初代ステレオ事業部長 鈴木健の 「私の体験よりの随想」
第5章:独創的新商品のマーケットは自ら創造すべし、他人は手伝ってはくれぬもの
今でこそテレオは100%普及したが、当時は次のような考えも根強く、普及拡大は疑問視される。これを踏破することは担当者の情熱的説得力しかない。
1):スピーカー2個、アンプも2台を必要とするだけにコストは高くなる、その上日本のように狭い部屋には全く不適。これらは皆売れぬ条件で 一面理にかなっている、問題はコストダウンや小型化を具現化し、且つその効果を知らしめればよい筈なのである。これは理屈ぬきで実行せねばならぬ。 私も北海道から九州まで視試聴説明に奔走したものです。この苦難の過程を乗り越えぬ限り、独創的商品は決して実らぬことを知るべきである。 ここにも知識や技術力でなく先ず担当の情熱の存在が必要なのである。繰り返すようだが独創商品こそビクターのシンボルとする企業なれば、 その人事の在り方こそ存亡の鍵と思うべし。
2):更に次のような疑問も出たものです
絵(映像)と音の両情報を持つTVが出現したこれからは、いくらステレオにしても音だけでは
その価値が半減してしまうのでは?従ってコストはTVの半値を限度とせぬ限り販売拡大は不可能ではないか?
しかし、たとえ音だけでもTVには出来ぬ感動を
与えるようにすれば必ず両立するはず、むしろコストを上げても独特のよさを持たせることこそこれからの採るべき姿勢と力説す。
事実TVは年々売価は下がっていったのに反し、ステレオは逆に音だけなのに年々平均単価は上昇(高級化)、昭和43年秋に13万円台で置き換わったのである。